• HOME
  • 事業概要
  • イベント情報
  • 取組み
  • ロールモデル
  • 輝く女性研究者

上田 直子 教授

上田 直子 教授

「ハブ毒を科学する!」 "世界初"毒線組織特異的な転写に関わる因子発見!

  崇城大学薬学部薬学科の上田直子教授らの研究グループは、毒蛇、特に日本の南西諸島(奄美大島、徳之島、沖縄)に生息するハブを主たる研究対象に、毒成分の構造•機能、分子進化、遺伝子発現制御、ベノミクス(毒動物ゲノムプロジェクト)など様々な研究を行っています。

MsUeda_pic1.jpg

  蛇毒は、唾液腺が進化してきたと考えられる毒腺で産生されていますが、その毒は、意外にも毒性の強い低分子化合物ではなく、ホスホリパーゼA2 (PLA2)(リン脂質分解酵素)や金属プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)、免疫系に関わる補体活性化因子などの酵素や、血管内皮細胞増殖因子、神経増殖因子など、他の組織にも発現しているようなタンパク質、ペプチドが主であり、各毒成分は、他の組織のものと同様な立体構造を保持しつつ、少しだけ構造を変えることで、極めて高い特異性をもち、ユニークな活性を発揮するなど、ハブ毒は貴重な生理活性成分の宝庫として注目されています。

 毒成分の産生メカニズムを明らかとするため、上田教授らの研究グループは、遺伝子発現に関する研究を行いました。主要な成分であるPLA2は、毒腺以外に膵臓にも類似構造のPLA2が発現していますが、毒型PLA2は毒腺でのみ、膵臓型PLA2は膵臓でのみ発現しています。「どうして、毒型タンパク質は毒腺でのみ発現するのか?」それには毒腺組織特異的な転写因子(おそらく何万とある遺伝子の中から、毒型遺伝子のみを選別して発現させる)が鍵を握っているのではないかと考えた上田教授は、その候補となる転写因子を探すことにしました。

 

 毒腺組織特異的転写因子は、毒成分が排出し、毒成分をつくる必要に迫られたときにスイッチがはいり産生されるのではないかと想定し、ミルキング(毒を排出させた)後の毒腺を用いた完全長のcDNAライブラリー(タンパク質のもととなるmRNAの集合体)を作製し、理化学研究所との共同研究により、約1万4千個のクローン中から、他の生物種で、唾液腺特異的に発現する転写因子と相同性の高い配列を有するクローンを数個発見。それらが実際に主要な毒成分であるPLA2の転写を活性化することを見出し、欧州の生物毒素(トキシン)の学術雑誌に掲載され、この成果は、今年(2015年9月)イギリス、オックスフォード大学で開催された18th World Congress of the International Society on Toxinology(第18回IST国際毒素学会の世界会議、約3年に1度開催)の口頭発表に採択されました。

MsUeda_presentation.jpgのサムネイル画像

 第18回IST国際毒素学会で発表する上田教授

  

 これまで毒腺の培養細胞が樹立されていない(極めて困難なため)こともあり、毒蛇のみならず、毒動物全体でみても、毒腺組織特異的転写に関する研究は全く進んでいなかった為、発表後は、「世界で初めての、毒腺組織特異的な転写に関与する因子の発見」ということで「まさにパイオニア的研究だ!」と、多くの研究者から称賛されました。早速オランダの発生学で著名な研究グループから共同研究の申し込があり、今後の研究の進展が大いに期待されています。

  そもそも、上田教授らは、当初、ハブ毒研究を貴重な創薬シーズとして注目し、未解明の生理活性成分を見つけるため、 その構造と機能を明らかとするタンパク質科学を中心に、タンパク質工学を意識してPLA2アイソザイムのcDNAクローニングを始めました。その結果、予期せぬ方向に研究が展開し、遺伝子で「加速進化現象」を見いだすこととなりました。「まるでユビキタスに存在する酵素・タンパク質が少しだけ構造を変化させ、それぞれに特異的な生理機能を獲得してきたように思われます。」と上田教授は語ります。ハブの生息地により、毒成分の遺伝子・発現も異なり、地域特異的進化も観察されるなど、今では, この分子進化は、毒素タンパク質の研究において, 代表的な研究分野のひとつになっています。

  

  さらに、最近、毒腺(venom gland)で産生される毒 (venom) を持つ毒動物には, 無毒動物にはない、何か共通した事象があるのではないかという壮大な構想のもと、ベノミクス(Venomics)という造語が提唱されました。これは、オミクス(生体中に存在する分子全体を網羅的に研究する学問。遺伝子(gene)であればゲノミクス(genomics)、タンパク質(protein)であればプロテオミクス(proteomics)、転写物(transcript)はトランスクリプトミクス。)を駆使して, 毒生物から創薬につながる生理活性成分を網羅的に探索するとともに、ゲノム解読を通して分子進化の謎解きに迫ろうとするものでもあります。

    MsUeda_pic2.jpg

  

 現在、九州大学、東北大学、沖縄科学技術大学院大学などの研究グループとの共同研究により、ハブゲノミクス(全ゲノム解読)も進行中です。膨大な情報を統合して、どのようにハブが進化的に毒成分遺伝子を獲得してきたのか、また,  毒成分遺伝子がどのように発現制御されているのかなど、様々な興味深い現象に対する分子機構が明らかになるのではないかと期待が高まっているところです。このように、日本の貴重な生物資源でもあるハブ(毒)を対象とした研究は、生化学、分子生物学、分子進化学、ゲノムサイエンス、さらに最近では、ハブ毒の特異な物性に注目したナノサイエンスの研究と、広範な分野に拡がっており、ハブ毒研究から垣間みる生命現象に魅せられた上田教授は、「古来、蛇(ハブ)は神そのものとして崇められてきましたが、私にとってハブ(毒)研究は、とても神秘的で、常に好奇心をそそられるものであり、そのすばらしさに日々魅せられて研究しています。」と話しています。

    

     

崇城大学薬学部薬学科 上田直子教授

ISTのサイト:http://lpmhealthcare.com/ist2015/ (別ウィンドウで開きます)

  • 男女共同参画への取り組み
  • 大学コンソーシアム熊本